公開:2010.03.12 11:15 | 更新: 2022.08.25 04:24
「このコースはルーティングがいいね」というとき、「ルーティング」とは何を意味しているのだろうか。
「戦略性」についても同じだが、「ルーティング」も定義が明確ではない言葉を、さも明確な定義があるかのように使われてしまう罪作りな言葉の一つに数えられるであろう。うわべだけの定義をとらえれば、それは「18ホールがどのように配置されているか」ということであるが、そこに規範的な要素は入ってないから、「良し悪し」を判断することがこれだけではできない。
3月発売の月刊Choiceにルーティングについての記事が載っている。そこで今注目度ナンバー1の設計家ギル・ハンスのコメントがある。
グリーンとティの配置にふさわしい場所を見つけることから始まります。これはティからグリーンまでのプレールートを二の次に考えるという意味ではありません。しかし地形を活かすグリーンとティの配置論はルーティングで最も重要な要素となります。
—Gil Hanse 月刊チョイス3月号
ルーティングに何を求めるか。それは18回の連続ドラマとして演出なのか、それとも地形を活かしたホールの配置なのか、風向きやショットの向きを重視した配置なのか、グリーンから次のティーまでの距離を重視するのか、など様々な要因が同時に絡んでくるので、設計者はその中で、しかもその用地やクライアントごとに何を優先するかを決めていく。
ギル・ハンスの場合はトム・ドールやクーア・クレンショーコンビ(ビル・クーアとベン・クレンショーのコンビ)などの最近の人気設計者と同様に、与えられた用地の中でまずどこにグリーンとティを配置するかを重視しているようである。
このような考え方は大型重機で自然を圧倒していくコース造成が当たり前になって久しい現代では奇異に見えるかもしれないが、ゴルフ設計の黄金期である1920年代にはそうするしかなかった事情もあり、当時はそれが当たり前であった。そして、そのことが未だに高い評価を受ける最大の理由である、と考えるのが上に挙げた三者なのである。
彼らの一世代前の人気設計者であるトム・ファジオはこのような考え方に猛烈に反発する。
今日では、急な丘や大きな高低差に直面したならば、我々は必要なだけの岩や土を吹き飛ばしてゴルフコースに必要な土台を創造するだけのことである。
—Tom Fazio Golf Course Designs
トム・ファジオは、そのままでゴルフコースになるような恵まれた用地にいつも出会えるわけではないので、厳しい用地であってもそれを良いゴルフコースに変えるのは設計者の技量であり、また最近の技術の進歩がそれを可能にしていると論じる。
我々の知識やノウハウはこれからも蓄積されていく。機械や技術は効率的になり、難題を乗り越えてきた経験と自信はもっと大きくなるだろう。こういったことが既に目の前で起きている。1990年代にできたアメリカの新しいコースは、過去に造られたどのコースにも引けを取らないと私は考えている。これまでよりも高い要求のもとでデザインされているし、オーナーや開発業者間の競争もかつてないほどに激しい。こうしたことは全て、より良いコースの実現に貢献しているのだ。
—Tom Fazio Golf Course Designs
とはいうものの、時はいま、2010年である。振り返ってみると、1990年代のコースの評価がどんどん低くなり、逆に高まっているのは2000年代に作られたトム・ドークとクーア・クレンショーら、「ミニマリスト派」ばかりである。90年代に造られたコースで未だに高い評価を得ているのはクーア・クレンショーのサンドヒルズであるというのが象徴的であろう。
用地の選定、及びその用地を活かしたホールの配置が何よりも重要なのだ。自然を活かすことによって他にないホールを作ることができる。人工的に造ろうとするとどうしても作り手の癖が出てしまい、どこか似たようなものになるからである。よって彼らは18ホールのドラマという観点はあまり重視しない。地形から決まるバランスの取れたベストの18ホールをまず決め、そこから1番ホールを決めるのだ。だから、クラブハウスの位置は最後に決めるのが理想的なのだ。
もちろんこれには問題もある。用地を重視しすぎると、規制の厳しい現代においては必然的に世界的に見ても僻地にまで行かないと適地が見つからないという難問にぶつかる。例えばクーア・クレンショーのサンドヒルズはネブラスカの何もないところに突然造られたし、トム・ドークのパシフィック・デューンズはオレゴンのど田舎の海岸線に造られた。それ以降はさらにニュージーランドであるとか、タスマニアなどビジネスとして成立するのか心配になるような場所に造られることが多い。
しかもあまりにリンクス重視で、最初は目新しく見えたそのスタイルも徐々に飽きられてきているようにも感じる。ゴルフの歴史もやはりスパイラルを描いて進むのであろうか。
A. W. ティリングハーストは、いまも世界最高の座を守り続けているパインバレーを造り上げたジョージ・クランプについてこう回想している。
私は汽車で20マイルほどいったあたりを彼が窓から外を一心不乱に眺めているのを何度も目撃した。実のところ、彼はサウス・ジャージーの奇妙なエリアの虜になっていたのだった。奇妙な、というのはその辺りの単調で平らな土地とまるで違っていたからである。最初、彼は誰にも何も言わなかった。しかし、彼は、松と砂で覆われた穏やかな丘の180エーカーの土地の権利を密かに手に入れていた。それは彼が汽車から熱心に研究していた土地であった。
—A. W. Tillinghast Reminiscences of the Links
良いルーティングとは、地形を活かしたホールを繋げることが大前提である。そして、同時に風向きやホールの向きを考慮し、18ホールのドラマをイメージする。これが全てかみ合わさった時に名コースが誕生するのだろう。
ジョージ・クランプはアメリカという地で、スコットランドにはない新しいゴルフを切り開いた。今後、このような新境地を切り開くようなゴルフコースが造られるのであろうか。
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