公開:2010.03.02 11:21 | 更新: 2022.08.25 04:26
ほとんど誰もが自分のプレーするコースに愛着を持っていることは驚くべきことだ。それはコースから想起される様々なもの—そこでプレーする仲間の存在や、コースをよく知っていると言う事実、またおそらく他のコースでプレーするよりは良いスコアで回れること—に起因するのであろう。あるいはそれはもしかしたら賭けゴルフに勝った喜びの記憶かもしれない。
そのコースは面白みもなければ戦略性もない、本物のコースにはまるでほど遠いものかもしれない。単にゴルフボールを打てる場所、でしかないのだ。
そのようなコースでプレーしている人はコースへのいかなる変更にも反対するであろう。しかし、いずれ運命の時が来て、理由も分からぬままに彼はゴルフに飽きてしまうのである。もしかしたらどこか素晴らしいゴルフコースで過ごした休暇の後、彼はホームコースの改造を熱望するか、単に他のコースへ移っていってしまうかもしれない。—アリスター・マッケンジー the Spirit of St. Andrews
ゴルフコースを語る上で必ずテーマに上るのが、そのコースの「戦略性」である。戦略性がなければマッケンジーがいうように、いずれ飽きられてしまい、そのコースは人気を失うだろう。
名コースを作ってきた設計家達はこの「戦略性」をどのように捉えてきたのであろうか?ドナルド・ロスはその著書で次のよう述べている。
私がコースを造る時、目標は各ホールに複数の攻略ルートをおくことである。2ショットホールの場合で言うと、スクラッチプレーヤーやロングヒッターが2打でグリーンに到達するルートを一つ(その場合、正確なショットをしなければならない)、そしてハイハンディキャッパーやショートヒッターが3打でグリーンに到達するルートを一つおくようにするのである。—”Each Course Must Have Strategies” Golf Has Never Failed Me
このようにロスは良いプレーヤーには選択肢を与えるコースを戦略性のあるコースと定義している。しかし、他の設計家達はロスほど簡明に戦略性については述べていない。彼らは簡単に「戦略性」を定義してしまうことを慎重に避けている。様々なホールを例に挙げることで戦略性を間接的に定義しているのである。
ロスやマッケンジーに並びうる現代の設計家の一人であるトム・ドークはその著書『The Anatomy of a Golf Course』の中で世界中のコースから例を引き遠回しに説明しているように、戦略性を定義することは難しいが、一つのヒントが彼が雑誌Golf Architectureに寄せたエッセイに見られる。
[...] 本当に優れたゴルフコースはプレーヤーができないことに対してペナルティを科すのではなく、彼らが何ができるのかを見せるチャンスを与えてくれるのである。[...]
手短かにいえば、アベレージゴルファーにとっては、彼の能力の範囲内でリカバリーの可能性を見いだすことのできる選択肢をできるだけ多く与える必要がある。同様に、最高の選手達—それはウォルター・ヘイゲンからアーノルド・パーマー、セベ・バレステロスからタイガーウッズにいたるまで—にとっても難しいリカバリーショットは彼らの真の才能と想像力を発揮できる数少ないチャンスなのである。 [...]
ドークは選択肢を与える上で重要となるのはフェアウェイの幅が重要であると述べている。現在多くのコースでフェアウェイ幅が25−30ヤードに絞られているが、1920年代には50−60ヤードが標準であったという。京葉カントリー倶楽部の当初の計画図面やオープン当初の写真を見ると、たしかにフェアウェイの幅は現在よりも遥かに広いのである。
いつのまにこのようなことが起こってしまったのだろうか?一つは技術的な問題と絡んで経済上の理由が挙げられる。ホールとホールの間の樹木が大きくなるにつれ日当りが悪くなり、短く刈るにはデリケートな状況となったためと、単純にフェアウェイを刈る面積が小さい方が費用が安くて済むからである。
フェアウェイの広さがコースの難易度と関係してくるという考え方もある。難易度が高い方が良いコースという風潮が、フェアウェイを狭くしてきたのだ。しかし、5年間女子のトーナメントを開催してみて分かったことがある。実はこの5年間少しずつフェアウェイを広くしてきたにも関わらず優勝スコアにはほとんど影響がなかったのである。これは、フェアウェイの幅を狭くしても難易度は上がらないということを意味している。もちろん、アベレージゴルファーにとっては難易度は上がるのであるが、本来の目的はトッププレーヤー達に対して難易度を上げることだったのであるから、フェアウェイを狭めることに正当な理由はないのである。
さて、なぜフェアウェイの幅が広い方が戦略性が高いのか。その答えは「選択肢」にある。
ティから同じ距離の同じフェアウェイ上にいても、グリーンまでの距離が違ったり、アングルが変わることで難易度が変わる。これによって、まずティーショットの選択肢が広がる。そして、ティーショットがベストルートから外れた時でも、フェアウェイにいることで高い球、低い球、ドロー、フェードと打ち分けることができる。いや、少なくともその可能性がある。このような局面からうまくグリーンを捉える可能性は低いであろうが、こういったリカバリーショットこそがゴルフの醍醐味であり、たまに起きる成功の余韻がいつまでも続くのである。
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